riturituのブログ

50代の日々の記録

井上靖「氷壁」📚

前半はあまりのめり込めず、読むのに時間がかかってしまいましたが
後半は最後どうなるのだろうと気になってしまい一気読みでした。

登山を愛する会社員魚津とその親友である小坂が、雪の前穂高に挑みますが
小坂の体を支えていたザイルが切れ、滑落してしまいます。
一人で下山した魚津は何故ザイルが切れたのか悩み続け、
世間は、小坂の自殺ではないか、魚津が自分の命を守るため切ったのでは、
と好奇の目で見、疑惑の眼差しを向けている・・・。


井上靖をきちんと読んだのは初めてですが、かなり良かったです。
人物の描写が素晴らしく、登場人物の姿が頭にくっきりと浮かび上がってきました。
主人公魚津の不器用で実直な人柄、魚津の上司常盤の豪快さと魚津愛?(笑)や
人妻の美那子の迷いある美しさ、小坂の妹かおるの穢れない真っすぐな様など。


魚津が過去の気持ちと決別し未来の誓いをするべく、裏穂高へ登るラストは
思いもしなかった壮絶な展開で、切なく苦しくなってしまったのですが、
きっとここで魚津は今まで分からなかった小坂の気持ちを知ったのだろう、
これから進むべきかおるへの誓いを果たせたのだろう、そう思うと
不思議とこれでよかったんだと穏やかな気持ちになりました。


井上靖の文章力、言葉の厚み、構成力に、読み応えを感じた一冊でした。



***
ボクシングの村田諒太さんが昨日引退を発表しその会見文を読みました。
ボクシングのことはよく分からないですが、賢い方だなあと思いました。
ー探し求めていた「強さ」は見つかったか?
「強さの答えは出なかった。ボクシング人生で気づいたことは、自分が思ったより強くて弱く、思ったよりも美しい部分があり、醜い部分もある、ということ。そういうことを見せてもらう旅だった。」
「俺ってこんなに汚くて弱いんだ、と気づいたことは、悪いことじゃなかった。克服するためのちょっとした向上心も見えた。葛藤しながらそれを引きずっていく。それが人生なのかな、と今は思っている。」